Gサピ塾長ブログ

個人塾、塾長による教育よしなしごと

「もう宿題やったの?」―――中学生の保護者が失敗する3つの声掛け

〈目次〉

0.自主性を奪う呪いの言葉?

1.親子の信頼関係

2.親子の距離感

3.価値観と環境

 

⓪自主性を奪う呪いの言葉?

子供のやる気を引き出す魔法の言葉というのは、そう簡単ではありません。

しかし、子供のやる気を一瞬で奪い、じわじわと無気力人間にしてしまう呪いの言葉というものは確実にあると思います。

20年、塾講師をやっていると、保護者と生徒の関係において、良好な関係を築いている家庭と互いに不満と不信を抱いている家庭の間で、生徒の自主性が差が出ていることが分かってきました。

前者の家庭の生徒は自主的に学習に取り組み、後者の家庭ではいやいや勉強をしています。

※Gサピでは、自ら学び習おうとする「学習」と、人から無理やり勉め強いられてやる「勉強」を区別しています。

 

当然、自主的に取り組んでいる生徒は、学習量が増えていき、成績が伸びていきます。

それに対し、いやいや勉強をしている生徒は、学習量は増えていきませんので、成績は伸び悩みます。

そして、後者の生徒の保護者の方から、よくこんな声を聞くのです。

 

「うちの子、家で全然勉強しないんです」と。

 

保護者面談などで、この言葉を聞くと、私は「やばいな」と思います。

 

というのも、この言葉が出ているご家庭では、多くの場合、「親子の信頼関係」が構築できていなかったり、「親子の距離感」が適切に保たれていなかったり、さらに言えば、親子間の「価値観」の共有がされていなかったり、あるいは、子供の「学習環境・習慣」が整っていなかったりするからです。

 

片や自主的に学習に取り組み成果を出す生徒がいて、片やいやいや勉強をして成果を出せない生徒がいます。

さて、このような差はどこから生まれてくるのでしょうか?

 

私は、3つの観点からこの質問にお答えしようと思います。

キーワードは、「親子の信頼関係」「親子の距離感」「価値観と環境」です。

 

 

①親子の信頼関係

まず、「親子の信頼関係」について、ご説明します。

「信頼」とは、その人の持ち場をその人の裁量に任せるということだと思います。

つまり、子供の学習状況については、子供のやり方に任せる、ということです。

当然、子供の方でも、自分なりに工夫して努力を積み重ね、親の信頼に応えなくてはなりません。

このお互いの相互作用で信頼関係が構築されていきます。

 

ところが、この信頼関係を一発で破壊し、じわじわと子供を無気力にしてしまう呪いの言葉あります。

 

それは、

 

「もう宿題やったの?」

「勉強しなさい」

「〇〇君は、100点だったらしいね」

 

の3つです。

 

これらの言葉は、それぞれ

「もう宿題やったの?」      →【監視】

「勉強しなさい」         →【命令】

「〇〇君は、100点だったらしいね」→【相対評価(他人と比べる)】

を意味します。

 

人は、監視されて、命令されて、他人と比べられると、やる気をなくします。

 

例えば、自分が料理を作る場面を想像してみてください。

調理中、遠隔カメラでずっと監視されていて、食費やガス代を節約するよう命令されて、「隣の家のごはんは、もう少し気が利いている」などと言われることを想像してみてください。

 

やる気を失うどころか、殺意すら湧いてきそうですよね(笑)。

 

中学生になると、子供に自我が芽生えてきます。

自我が芽生え始めた人に対して、過干渉をしてはいけません。

責任の所在を明確にして、本人のやり方に任せることが大切です。

そのためには、適切な距離感を保つことが必要になります。

 

②親子の距離感

それでは、引き続き「親子の距離感」について、ご説明します。

仮に、自主性を引き出す保護者を「尊重する親」、無理やり勉強させる保護者を「強制する親」と呼ぶことにしましょう。

 

尊重する親は、子を観察し、強制する親は、子を監視します。

尊重する親は、子の話に耳を傾け、強制する親は、子の話を遮ります。

尊重する親は、自分の考えを提案し、強制する親は、自分の考えを押し付けます。

尊重する親は、子の努力を承認し、強制する親は、子を成果のみで評価します。

尊重する親は、子に選択肢を与え、強制する親は、子の選択肢を奪います。

尊重する親は、子に自分で考えさせ、強制する親は、子に無理強いします。

尊重する親は、子に自分で決めさせ、強制する親は、子に従わせます。

尊重する親は、子の行動を尊重し、強制する親は、子の行動を制限します。

尊重する親は、子の成長に興味を持ち、強制する親は、子の結果にのみ関心を持ちます。

 

このように子の自主性を引き出すためには、過干渉はもちろんよくないのですが、放任・主義(放置)という訳でもないのです。

尊重する親は、つかず、離れず、子が困ったときには、すぐにサポートできるような距離感を大切にします。また、尊重する親は、子を一人の人格として尊重し、よき理解者として寄り添うのです。

 

自主的に学習に取り組む子のご家庭では、親が子に「勉強しなさい」とは決して言いません。

これは当然ですね。

親が「勉強しなさい」と言った時点で、「自主的」ではなくなってしまいますもんね。

 

ところが、これには、反論があろうかと思います。

 

「もし私が「勉強しなさい」と言わなかったら、うちの子は本当に何もしませんよ!」と。

 

③価値観と環境

それにお答えするために、「価値観と環境」についてご説明したいと思います。

まず、「価値観」について触れたいと思います。

子の自主性を引き出す価値観とは、例えば、「努力によって成長すること、そして、そのために前向きにチャレンジを続けることは、良いことだ」という考えのことです。

 

そしてこの価値観が家庭内で共有されていなければなりません。

共有するというのは、ただ口で伝えるだけでは不十分です。

親自身が「努力によって成長し、そのために前向きにチャレンジをしている姿」を子に見せる必要があります。

それを見た子は、親が大切にしている価値観に気づくことができます。

また、その価値観について、年に一回ぐらいは、言葉にしましょう。

 

たとえば、私の家族では、年に2回、誕生会と忘年会に、その年の振り返りと新しい一年の目標を発表し合う機会があります。

それを聞いて、私は父が何にチャレンジしていたのか、母がこれから何に挑戦しようとしているのかを知るのです。

そして、「なるほど、親たちもなかなか頑張っているな」、と刺激を受けるわけです。また、自分が目標を発表することで、チャレンジ精神がより強化されていきます。

 

次に、環境についてご説明します。

環境については、主に「家庭内の環境」と「家庭外の環境」の2つの観点があります。

後者の「家庭外の環境」については、また別の機会に詳しくご説明したいと思います。

 

「家庭内の環境」とは、子にとって「選択肢として、すでに、そして常にあるということ」を意味します。その子が「すでに、そして常にある」ものの中から取捨選択していく中で、新しい世界と切り結んでいきます。

したがって、家庭内での教育の本質は、この「すでに、そして常にあるという」環境を整えることにあると思います。

そこで、教育的な意味で、この家庭内の環境をいかに整えるべきか、考察したいと思います。

 

例えば、親が自分の子に「本好き」になってもらいたいと思っている場合を考えてみましょう。

もうお分かりと思いますが、「本好き」になってもらいたいからといって、「本を読みなさい」と言うのは、愚策中の愚策です。それでは、おそらく子は本が嫌いになるでしょう。

 

では、具体的にどうすればいいでしょうか?

 

  • 身近に本がたくさんある状態をつくる
  • 図書館や本屋に連れていく
  • 読み聞かせをする
  • ほしい本があれば、おしまず買ってあげる、または借りる
  • 親自身が本を読んでいる(姿を見せる)
  • 親が面白いと思った本の内容を紹介する(読ませなくてよい)
  • 子が最近、読んだ本について、好奇心を持って質問する
  • スマホやインターネットのオフライン・タイムを家族ルールに盛り込む

などのアイデアが考えられます。

 

決して、本を読むように無理強いしていけません。

ただ「本好き」になる道を用意しておくということが大切になります。

 

しかし、ここまでやったからといって、必ずしも子が「本好き」になるとは限りません。

もし子が「本好き」とは別の道を選んだとしても、その選択を尊重しましょう。

親が期待していた通りの「本好き」に、子が成らなかったとしても、これらの環境やその中での経験は決して無駄にならないでしょう。

そのような恵まれた環境の中で、本より魅惑的なものを選んだのですから、きっとそれはその子にとってよほど魅力的なものに違いありません。

次は、その子の気持ちを尊重して、その選択を全力でサポートする環境を整えればいいわけです。

 

最後に、私からみなさまに、一つ課題を出したいと思います。

簡単なものなので、今すぐにチャレンジしてみてください。

ここで例に挙げた「本好き」の「本」の部分をすべて「学習」に置き換えて、読み直してみてください。

そして、その際に、他の部分も「学習」にふさわしい形に条件を変更してみてください。

それが、家庭内でできる、子から自主性を引き出すための方略の第一歩になると思います。